2002年10月 小物−A ナンバープレート

先月に引き続き、小物の製作を続けた。セントラル鉄道8620のテンダーには三方支コックがついている。これはテンダーに水が入っている状態で機関車を切放した場合に、テンダー水の流出を止めるためのものである。なかなかよくできていて、手ブレーキのような形状で見栄えが良い。これを取り付ける準備をした。

三方支コックの操作部分は特に工作の指定がないが、図面と現物にあわせて製作した。三方支コックロッド部にバネ吊を加工したときに製作したヤトイを使用して穴を空け、ドリルロッドを曲げたものを取り付けた。ビス止めにして抜くことができるように加工する。

三方支コック

ハンドル部

ここまでは全く問題なく進んだ。しかしやはり一筋縄ではいかなかった。

テンダーの道具箱を製作したときに、私は設計変更し、道具箱寸法を長く床板まで延長した。これは、送られてきた部品を取り付けると、ハンドポンプの配管穴が丸見えになる上、見栄えも悪いからという理由だった。また、中川氏の8620を検分しても、床板まで延びているため問題がないと判断したからでもある。しかし以前からテンダー床板前部に穴が左右3個ずつ空いていたので気になっていた。

まず下の図面を見ていただきたい。これはテンダー前部を上から見た図である。テンダーに座って、見下ろすとこのような図になる。上が機関車側でである。
黄色の枠がテンダー床板、紫はハンドポンプ、真中の四角は石炭取出口、その左右が道具箱部分である。黄色の〇は予め床板に空いていた穴である。下の大きめの穴は給水用取出口で、上のやや小ぶりな6個が用途不明の穴だ。

テンダー前部上面図

この用途不明の穴は、右ハンドポンドポンプの配管用の穴と思われるが、図面を見ても内側の2個は道具箱の上に半分被っており、この穴は使い道がない。しかし、三方支コックはこの穴を使用して取り付けるようだ。取付用の6角ナットのスペースも考えると、とても取り付けは不可能だ。

しかし、道具箱の上下高を変更しなければここは問題なくとりつけられることになる。設計変更が裏目に出てしまったのだ。

やむを得ず、道具箱の裾をカットし、取り付けナットが回転できるようにした。さらに、穴位置をずらして開けなおした。

ホールソウを使用し穴をずらして開口

ナットの逃げを加工

これで何とかぎりぎり三方支コックを取り付けることができた。さらに道具箱の蓋に加工を施し、テンダー前面も完成に近づいた。本当は手すりを左右につけなければならないが、この手すりをつけてしまうとテンダー後部を加工するときに前面を下に向けて加工することができなくなってしまう。できないことはないが不安定になることは間違いない。
あっさり取り付けないことにした。

後は道具箱上部の蓋・石炭取出口の蓋を製作しなければならない。

さて、テンダーが完成に近くなると、塗装も考えなければならない。ナンバープレートは塗装前に取り付けておいたほうが塗料とともに脱落というリスクがなくなる。テンダーはケーシングが直接水タンクになっているので、穴あけすることはあまり好ましくなく、接着剤等で直に取り付けることになる。

そのような理由で、この時点でナンバープレートを製作しなければならなくなった。セントラル純正プレートでは旧書体の8620がついてくる。サイズはやや大きめで、形式プレートのサイズとなっている。これを待っているといつまでも塗装ができないので、好きな番号でエッチングを外注することにした。エッチングを外注するには版下の製作をしなければならない。当然、番号を決定しなければならない。

では何号機にするかだが、私が所有している8620の写真で特に印象に残っている機関車は、花輪線三重連で活躍した「88620」である。旧書体の形式入りプレートで化粧煙突「竜ヶ森の主」と呼ばれ、かなりの写真が残っている。原型にもっとも近いハチロクと呼ばれた機関車でもある。
これにしようとずっと考えていたが、いざ版下を作るとなると、まず書体、そして「形式8620」と書いてある部分の原版として参考になる写真がない。さらには、正面だけ形式プレートでその他はノーマルプレートとなるため、手間・費用が半端ではなくなる。版下を二種作成しなければならない。しかも、私は形式プレートが嫌いである。

結局妥協して、似たような他の機関車を探した。まず@凸型テンダーでなく、A化粧煙突で、B形式なしのナンバープレート、C大型標準デフ、の機関車である。要するにこの条件なら何番でもよいのだ。すると花輪線の機関車では唯一、適合する機関車があった。48685である。このプレートを作ることにした。決して特定番号機を製作しようという目的ではない。ただ花輪線の機関車が好きなだけである。

ナンバープレートの字体については、製造工場によって微妙に異なる。例えば、5などは良い例で、下の丸いアゴが縦の直線よりも内側に入っている珍しいものもある。また、CやDなどのアルファベットについても丸に近いものもあれば角に近いものもある。字の間隔についてもまた然りである。

これについては、「日本国有鉄道蒸気機関車設計図面集」を参考にした。ナンバープレートの規則について細かな記述がある。この規則によると、

@ 数字の大きさは縦132mm・横84mm
A プレートの縦寸法は200mmで横寸法は桁によって異なる。縁の幅は12.5mm
B 数字と数字の間隔は25mm
C アルファベットと形式番号の間隔は50mm
D 形式と製造番号の間隔は65mm

ということだった。48685は当然アルファベットがない。実機の写真を見ると、盛岡鉄道管理局のカマには面白い規則があった。86XXとその頭につく数字の間に間隔が取ってある。大げさに書くと「4 8685」となっている。

版下はフリーハンドでも、イラストレーターなどのソフトでも製作することができるが、今回はCADで製図することにした。設計図面集のナンバープレートをスキャナーで読み込み、さらにそれをCADに読み込んでトレースした。縮尺についてはとりあえず1/1で製図し、後からサイズを変更することにした。CADで製図しておけば拡縮複写が使えるため、あとから縮尺どおりにできる。こうして作り上げた図面が下のものである。6の×印はナンバープレートのセンターである。

これを作るのにかなり時間がかかった。特に、6と5は難しく、Rがやや不自然になっている。せっかくなので他の番号もいくつか作っておいた。4・5・6・8に加え、C・0・1・2・3である。これを組み合わせることで大抵のナンバーは作ることができる。こちらでは2が難しかった。3については、8を加工し、Cについては0を加工した。

さて、1/1をどのサイズまで縮尺するかの問題だが、これも結構大変だった。セントラル鉄道8620がファインスケールで作られているならそのまま1/8.4にしてしまえばぴったりだが、場所によって縮尺がかなり異なっている。
例えば、ボイラー径はキットから逆算すると、ほぼ1/8.4だった。ということは、実機に比べてかなりボイラーは太いという計算になる。全幅についても同様でほぼ1/8.4である。動輪直径、全高については9分の1になっている。
ようするにデブなのだが、線路幅に対する全幅という意味では理想的ともいえる。

ナンバープレートの取り付け位置やサイズは正面から見た機関車の印象を決定する。同じ機関車でも、ナンバープレートの取り付け位置が極端に高かったり低かったりすると、全く別形式であるがごとく表情が異なってしまう。
そんなわけで、数少ない手持ちの8620実機写真から逆算したり、CAD上で取り付け位置を確認したりしてみた。

左は純正ナンバープレート・右は自作のプレート

上の図面は機関車の正面・ボイラー部分の「お面」である。参考に、煙室戸ハンドルとLP42ヘッドライトを加えてナンバープレートを載せてみた。左下の文章は取り付け位置とプレートの上下高の理想が記入してある。

結局右の自作サイズで縮尺を決定した。大変面白いことに、ナンバープレートのサイズは結局ほぼ1/8.4になり、ボイラーと縮尺が同じになった。

ここでサイズが決定したので、拡縮して、実物大から模型サイズに変更した。エッチング業者によると版下は最終仕上がりサイズを指定しておけば原寸大でなくても大丈夫ということだった。念のため大きい版下と模型大のサイズをプリントアウトして業者に送った。後から知ったが、ナンバープレートの黒塗りの部分も塗りつぶしておかなければならなかったようだ。私の使用しているCADでは塗りつぶしができないので面倒だ。


4週間ほどで注文したプレートが届いた。指定した寸法どおりカットされており、しかも完璧な仕上がりだった。知人のものも含めて10枚注文したが価格も相場よりかなり安い。

ナンバープレート

完成したナンバープレート

製図するときに満足せず妥協したところはやはりそのまま完成版にも反映された。5の曲線がイマイチ不自然である。さっそく次のことも考えて5を修正しておいた。製作したプレートはこのまま使用する。
ナンバープレートの製作には原版が欠かせないが、先日四国の高松へ行ったついでに多度津まで足を伸ばした。その理由は、58685が保存されているからだ。四国地方の主力蒸機はC58と8620だが、多度津の58685は48685と一字違いで、しかも58685は形式プレートだった。形態も私が目標としている標準デフ、化粧煙突、台形テンダーと完璧である。
8620はデフレクターの大きさがまちまちで、大きいものもあれば小さいものもある。この機関車のデフは絶妙なサイズで、8620に完璧といってもよいほどマッチしている。
保存状態は運転室を中心に欠損や破損があるが、屋根があるために錆びはほとんどない。綺麗に手入れされていれば、さぞかし美しい機関車に違いない。

多度津駅前にて

業者に版下を送付してからこの機関車とめぐり合ったが、拓本をとれば手っ取り早かったかもしれない。良く見ると、5の形状が異なる。

58685は多度津駅前に保存されているが、機関車周辺の敷地の状況から以前鉄道用地であった可能性が高い。写真のようにちょっとした公園のように整備されているが、後ろはすぐ鉄路で、ホームからも良く見える。バックに鉄道関連施設があると、とても映えると思う。また、多度津駅には古いレンガ造りの給水等も健在である。四国へ行く機会があったら見ておいたほうがよいかもしれない