2003年4月 第5回 動輪−A
さて、車軸を作り直すことに決定したため、その製作に入ることになった。純正の動輪および車軸はNC加工で、切削面が大変綺麗である。軸箱も同様、砲金削りだしによる素晴らしいものが同梱されている。

軸箱(動輪側より撮影)

軸箱分割面

念のため軸箱の採寸も行った。結果は、中心よりやや前に穴が偏芯していたが、全ての軸箱が同様に偏芯していたため軸距離はきっちりと一致する。このあたりはさすがである。
軸穴も同様で、19.80mm、全く誤差がない。車軸を通すと全く隙間ができず、オイルを塗って回転させると若干引っかかりを感じる程度の完璧な加工である。

車軸を20mmSK材から製作しようと考えていたが、19.80mmとなると、外径削りを行わなければならず、私の技術ではかなりの難工作が予想された。しかしやらざるを得ない。
ボールベアリングに比べて平軸受けは精度が必要になる。たとえば、軸穴に対して、車軸径が小さいと機関車の荷重を平ではなく、線?でうけることになるからである。逆に車軸径が大きいと、分割した軸箱を組み立てることができない。

材料は近所に御住まいのライブスチーマーより分けていただいた20mm45C丸棒を切削することにした。真円とはほど遠いが、切削するので問題はない。

1m以上ある丸棒を帯ノコで切放し、とりあえず外径切削を行った。私の旋盤は主軸貫通穴が20mmなので、理屈では貫通させることが可能だが、真円でないので主軸に差し込むことができなかった。まず簡単に外径をクリーニングして切削に入った。

外径削り

必要な本数は、第一動輪と第三動輪の二本である。
しかし・・・・結局5本も切削することになった。理由は簡単。失敗をし続けたからである。車軸の切削はそれほどでもないだろうと考えていたが、現実はかなり難しかった。
具体的な車軸の製作法については他のHPを参考に・・・。私のやり方は公開するほどではない。

写真が残っていないのであまり詳細は説明できないが、とにかく軸箱とのクリアランスがうまく取れないのである。最初の一本目は動輪の穴とのクリアランスすら適正に取れなかった。
どうも、旋盤の能力にも問題があるようである。刃物台の送りねじにガタがあり、これを調整するすことができない。

じつは同じ旋盤を使用している知人にも同様の症状が見られた。送りねじとナットのバックラッシュの問題と考えられる。

しかしこの旋盤で切削せざるを得ないのでめげずに削り続けた。
コンマいくつまで旋盤で追い込んで、後はペーパーでひたすら磨いた。バイトは超硬スローアウェイバイトを使用したがそれでもNCのような表面にはならない。
ペーパーでも十分切削はでき、ある程度のところまで削ると軸箱にぴったりのところが見つかる。その頃には表面がピカピカになっている。こうして5本作った中でもっとも良いものを2本選んだ。

平軸受けは工作が大変。ボールベアリングなら精度は不要である。ただし分解できなくなるが・・・。


さて、また失敗の大公開である。
車軸の切削はX軸方向の切削距離が長いので、日頃全く使用していなかった自動送りを試してみた。全く便利なもので、切削面も美しく最後のほうでは「これナシではやってられない」というぐらい気に入っていた。

しかし問題は取扱いだった。最後の最後、車輪取付部の段差加工時(バックゲージを119mmきっちりあわせるための加工)に、自動送りの解除を行わずにスイッチを入れてしまったのである。
「しまった!」とスイッチを停止に入れようとしたところすでに事故は起こっていた。すざまじい音とともに激しく削りカスが飛んで、バイトはチャックを削っていた。

チャック被害状況 失敗作

チャックまでサクサクと・・・

最後の加工でダメにしてしまった車軸

思わず購入時に寿貿易から言われた注意事項を思い出した。「この旋盤の欠点は緊急停止スイッチがついていないことです。」

はぁ・・・・ため息。まあ指が飛ばされなかっただけよしとしよう。

その後工作を中断して旋盤をチェックしたが、チャックの爪とバイトシャンク以外、問題がないようなのでとりあえず一安心。

しかし、失敗はまだ続くのであった・・・・


涙の結晶ともいえる車軸に動輪を取り付けて寸法を確認した。仕上がりは問題なかった。

動輪の固定にはロックタイトの最高強度を誇る「はめあい用#638」を使用した。お借りしたクォーターリングジグにまず第二動輪を載せてクランクピン基準高をあわせ、それから第一、第三動輪を順次取り付けた。動輪および車軸はしっかりと脱脂しておく。測定のときに使用したブッシュを取り付けておくことはいうまでもない。

しかし、こんな簡単な作業でも私は失敗した。ロックタイト塗布後、しっかりと位置を保持させるために左右の動輪に錘を載せたのだが、これが重すぎたため車軸がジグから浮き上がっていたのである。

そんなことはツユ知らず、次ぎの動輪取付のために脱脂作業に入っていた。10分も経っていなかったと思うのだが、気がついたときにはすでにロックタイトは固まっていた。こんなに早く固定されてしまうとは!

さすが最高強度のロックタイトだけある。もうどうにもならない。仕方がないので、先月購入したプーラーを動輪に取り付け、抜き方向にテンションを十分に掛けた後、バーナーで車軸をゴーゴーあぶった。それでもなかなか抜けない。それでも熱し続けるとヌルッと車軸から動輪が浮き上がり、はずすことができた。加熱したロックタイトは粉状になっていた。不思議な接着剤である。

動輪は綺麗に切削されていたのだが熱で変色してしまい、研磨せざるを得なくなった。しかも悪いことは続くもので、今度は車輪研磨のときにチャックから動輪が外れ、刃物台に当たって傷までつけてしまった。もう開き直るしかない。

まあ、一つ良かったことはせっかく購入したプーラーが役に立ったことである。

ベアリングプーラー 使用方法

プーラー

先月の鋳物で再現

ドタバタ劇の後、しっかり固定された動輪を再度ジグに載せて測定した。まず問題ないはずである。車軸と軸箱のクリアランスもさすがに5本もつくればよいものができる。

この段階で動輪は完成したが、キーの問題がまだ残っていた。
まず、純正のまま加工をしていない第二動輪にキーを差し込む作業を行った。キーは4×5の角棒が同封されており、表面をヤスリで仕上げて差し込む。
下写真は純正車軸の動輪取付部である。車軸側のキー溝はエンドミルで加工したためと思われるが、底がRになっている。そのままキーを差し込むと角が引っかかりしっかりと収まらなくなる。

車軸キー溝 キー

車軸キー溝

上は加工前、下は加工後

そこでキーを四つ爪スクロールチャックに咥えて、ヤスリでゴリゴリ仕上げた。

一方、第一動輪と第三動輪の車輪側キー溝については、いろいろ考えた結果以下のとおりに仕上げた。当然穴を塞ぐための目的であり、キーとしての効果は全くない。

キー溝の幅は5mmなので、5mm厚のアルミ帯材を購入し、側面をエンドミルでR加工した。このRは車軸のRに合わせて加工するのが理想だが、そんな高価なエンドミルを購入する気にもならず、手持ちのエンドミルをチャックで咥えてバーティカルスライダーに帯材を取り付けて加工した。

アルミ帯材 動輪完成

R加工

完成した動輪

この帯材の4辺を上写真のようにエンドミルで加工した後、キー穴の高さにあわせて糸鋸で切り出し、さらにRを多少修正して穴に突っ込んだ。(上右写真)

素材が異なるため違和感があるが、アルミは柔らかいので使用した。現物は写真ほど気にならない。(と信じたい)

失敗を繰り返し、とりあえず動輪は完成した。回り止めをする必要があるが、なにせ連結棒が届いてからではないと加工する気にならない。すくなくとも、ロックタイト#638はその強力な接着力を身をもって確認しているので、回り止めは実験もかねて行わないことにする。車輪が緩んだらまた固定すればよいのだ。

車軸加工上の後悔は、動輪から車軸をもうすこし突き出したほうが良かったかもしれないということだ。写真のように私が加工した第一・第三動輪は車軸端面が動輪と一致しており、境界がはっきりしない。しかし純正の車輪は0.2mm程動輪よりも車軸が突き出ている。
視覚的にも突き出したほうがいかにも動輪らしくて良い。ちなみに、この加工の後、実物のC58図面を確認したら、車軸は動輪表面よりも2.5mm、突き出すように指示されていた。8.4分の1ならおよそ0.3mmである。(細かすぎか・・・)


先日知人の紹介で、またビデオ・・・ではなく今度はDVDを購入した。これは「DVD SLベストセレクション」というものである。
出版・販売はNHKからであり、当然その映像は過去NHKが撮影してきたものである。DVDは3枚一セットになっているが、これはとてもお買い得だった。
そのうちの一枚は、確か1983年だったと記憶しているが、NHK特集で放送した「C571最後の全検」だった。当時中学二年生だった私はこれをテレビで見た覚えがある。この番組を見た後、ピカピカになった山口号に乗りに行った。すでに20年近く前になってしまっている。時が過ぎるのは早いものである。

しかし、この3枚の中で、もっとも私が気に入ったのは「懐かしの蒸気機関車〜貴婦人C57の力走」というものである。セットから連想される内容は山口号の映像だろうと考えていたのだが、この貴婦人とはC57135だった。つまり室蘭本線を走っていた現役当時の映像である。

とてもお金がかかっており、フィルムではなくビデオテープによる収録で、おまけに音声はHi−Fiになっている。黒岩保美氏のビデオも素晴らしいが、画質・音質ではとても比べるまでもなく、「さすがNHK」と納得する内容である。空撮あり、道路からの併走あり、パンニングもあり、また客車の中の様子や駅の様子なども撮影されている。機関車だけでも、フロントデッキ、従台車、運転台、屋根と少なく見積もっても4台のカメラがセットされている。「学ランの下に赤いシャツを着たリーゼントの学生」というすでに絶滅してしまった学生の貴重な映像?まで収録されている。

とにかく映像が綺麗なのである。まるで昨日ロケ撮影されたのではないかというぐらい映像が綺麗である。現役時代の蒸気機関車がどのようなものであったかは、この映像一本で説明ができる。ナレーションも一切ない。撮影された時代そのものが映像に残されている。

これだけ映像が綺麗だと、蒸気機関車が昔のものだったという感覚すらなくなってしまう。こいつは買い!