2002年3月 第4回テンダー下回り-B軸箱

毎月のタイトルをつけることが難しくなってきた。というのは今回組み付けたパーツは配布第4回目にあたり、テンダー軸箱、軸箱守、車輪、バネ、イコライザー関係になるが、取り組んでいる場所はテンダー下回りになる。ということで、第〜回は、配布回数、そして-Bなどの付属数字は組み付け箇所の進行順序ということにする。

先月、テンダー台枠が形になったので、いよいよ車輪を組み付けることになった。一旦仮組してある台枠をばらして、軸箱守を組み付ける。軸箱守は鋳物でできており機械加工済みである。形状は複雑で、さすがメーカー系のキットだけある。精度は完璧で、レーザーカットの台枠にピタリと収まる。言葉では形状を説明することが困難であるため、図面と写真で形状を理解していただきたい。

表側 裏側
図面中紫色の破線は台枠にあたる。赤の点線は透過部分である。軸箱守上面に突き出ている板状の部分が台枠の裏側に回り、ずれないように固定される。実際台枠にスパッとガタなくはまった。設計図には「車輪を仮組して一番スムーズに回るところを選んで台枠にビス止めしなさい」と指定されているが、台枠はすでにレーザーで精度は出ているので、車輪を組み付けずにそのままバイスで固定し、台枠の穴をヤトイにして穴あけした。

台枠に軸箱守を取り付け中

写真は、台枠に軸箱守をはめようとしているところだが、取付関係が良く分かると思う。しっかりとはまるため、軽くCクランプで保持しておけば穴あけもずれることがない。機械加工済みのキットは本当に楽だと思う。誰でもそこそこの精度がでるよう最大限の工夫が見られる。

全ての軸箱守を組み付けたらもう一度台枠を組み立てていよいよ車輪を取り付けることにする。車輪を組み込む前に一応軸箱守に軸箱をはめてクリアランスを確認した。全く問題はない。

軸箱

車輪に軸箱を取り付け

さすがにぴったりである。軸箱もベアリングの穴あけ加工、フライス加工が全て済んでおり、自分で加工するところは軸箱蓋と、バネつりの穴あけだけである。軸箱蓋はダミーだが、真鍮平板が入っているだけなので、合計六枚軸箱の形状に合わせて糸鋸で切り出さなければならない。

軸箱にはベアリングが組み込まれ、ベアリングに車輪のジャーナル部がはまる。テンダーについては平軸受けではなくベアリング軸受けになっている。錆びないように油でべとべとになっている車輪を取り出し早速ベアリングを取り付けてみた。しかし、車軸径に(あるいはベアリング内径に)僅かなばらつきがあるようで、簡単に組込可能なベアリングと、どうやっても組みつけられないベアリングが出てきた。

仕方がないので、あっさり組み付けできたものはそのまま組み込み、それ以外のものは車輪を旋盤にかけてペーパーでジャーナル部を軽く磨いた。ほんのわずかペーパーがけしただけだが、問題なく組み付けることができるようになった。旋盤を導入したから良かったものの、これを手作業で行っていたとしたら恐ろしく時間がかかったことだろう。工作機械の導入は本当に作業が楽になる。車輪の切削面はとても綺麗で、自分で鋳物から切削した場合にここまで仕上げるのは不可能に思えた。まだまだ練習する必要がある。

ベアリングの組み込みが終わったあと、今度は軸箱を車輪に組み込んだ。上右の写真である。しかし、軸箱のベアリングとのクリアランスもかなりシビアで、この後ベアリングは軸箱に入ったまま取れなくなってしまった。取れなくてもそれほど問題にならないのでそのままにしてある。

再度仮組した台枠をひっくり返し軸箱と車輪を軸箱守に納めた。こちらのクリアランスもかなりシビアで、きっちりというところである。3軸ともほぼストレスなく軸箱守の中を往復するのでこれで問題はないと思う。しいて言えば1軸側の動きがやや鈍い。

車輪の動きに問題がないため、台枠に軸箱守を取り付けたまま軸箱守控えを加工した。軸箱の蓋にあたるパーツである。平鋼にミーリング加工されており、軸箱に取り付けるための穴もすでにセンターがでている。罫書く必要もない。ドリルでバシバシ穴を開けた。

左が裏、右が表(車軸側)

加工が終了した軸箱守

台枠に軸箱守を取り付けたまま、控えを軸箱守りに取り付けてCクランプで押さえ、軸箱守りに穴を写しあける。全軸写しあけた後はタップを立ててビス止めする。右上は一体になった軸箱守りである。

軸箱回りの加工が済んだところで、もう一つパーツを加工した。それは、ダミーの横梁である。テンダー台枠は水槽よりも幅が狭いため、台枠外側まで横梁が必要となっている。実機では実際に水槽の強度を増すためにつけられているが、ライブスチームのものはあくまで飾りでしかない。

過去配布の機関車は、この横梁は鋳物で製作されていたようだ。リストラのため今回の配布はプレスによる製造だった。シャーリングによるカットで切断面が荒れていたのでヤスリでシャープに仕上げた。写真は加工後のものである。長いほうの辺にも穴あけ加工しなければならないが、台枠に取り付けてから床板の穴をヤトイにして写しあける。

今後、台枠にはイコライザーやバネ、バネつりを加工して組み込まなければならないが、一旦転がして遊ぶために車輪を取り付けて記念撮影をした。車輪がつくだけで完成に近づいたようでとても満足した。

 車輪がついたテンダー下回り


つい先日、ある知人から素晴らしい資料を頂いた。それは「蒸気機関車の作り方/田口武二郎著」という本である。本のタイトルぐらいはご存知の方もいらっしゃるかもしれない。「ライブスチーム/渡辺精一著」が発売されるまでのライブスチームのバイブルである。誠文堂新光社で昭和10年に発行されたものである。

私は、この本をまだほんの僅かしか読んでいないが驚きの連続であった。昭和10年といえば、まだ実物のD51やC57が世の中に出る前の出版である。見開きの写真(これがまた古臭くてよい)では35mmゲージのC53製作法や51mmゲージガソリン炊きC51の写真などが掲載されている。ボイラーの制作方法やオイルポンプ、基本的な技術はそれから60年以上過ぎた現在でも全く変わることなく引き継がれている。

旧仮名遣いで、右から左へ読む表紙のタイトルには歴史を感じる。私にとって昭和10年は、感覚的に江戸時代と大して変わらないほど昔に感じるため、つまらない文章一つに感動してしまう。たとえば、「ハンドレールノブ」の製作法には以下のような文章で説明がされている。

 

十二 ハンドレールナツブ

ハンドレールナツブは同じやうな形のものが随分沢山要るのですから、売つているのを買ふ方が楽ですが然し自分で作つてみたい方は御作りになるのも一興です。旋盤で丸棒から削整する方法は何等説明を要しませんが、このナツブは旋盤無しでもできるのです。

「ハンドドリルでピストンを削整する方法」とかいうふことはよく耳にすることですが実際ピストン等は余程腕がなくつてはできるものではありません まづ諸君の内百人が百人出来ないと考へます。ですがこのナツブは取付ボール盤なら必ず出来ます。ハンドドリルでも出来ないことはありません。なほ同様の方法で他の品、例えばアメリカ型の機関車についているベルなぞも内側を抉ることは困難ですが外形は楽に出来ます。

ハンドレールナツブを作りますには真鍮丸棒の一端を鑢で尖らして他端をチヤツクに取付けます。ボール盤付属の平テーブルを裏返してその中央に空いているセンター孔に前記の尖つた先端を嵌め真鍮棒が振れぬやうにしておき、ハンドルを回しながら鑢で整形してゆきます。一度にあまり沢山作らうとすると行り損くないます。四個位作るのが適当です。出来たら糸鋸で一個づつ切放してから今度はハンドレールの穴をあけるのです。

と、この後、ジグを使って穴あけする説明に移るのだが、たったこれだけの文章でも、「はぁ、昭和10年でもハンドレールノブは模型屋で購入できるのだなあ・・・」とか「真鍮丸棒はどこへ行けば購入できたのだろう・・・」とか、「旋盤は大型で運ぶのが大変だっただろうなあ・・・テーブルリフターなんかないだろうし・・・」とか、考えだしたら止まらなくなる。さらに「この次の年に2.26事件がおきて日本は戦争に突入するのだ・・・」と余計なことまで考えてしまう。

ライブスチームはマイナーな趣味だが、歴史ではラジコンなど足元にも及ばないだろうし、そもそも、ライブスチームの日本での歴史はペリーの黒船来航までさかのぼるのだ。「これからは、心を入れ替えて技術の継承にいそしむのだ」などとつまらない義務まで感じてしまった。