2001年3月 「ボイラーと鈑金」
これまでは、問題らしい問題がなくレストアは続いていたが、恐れていたことが発覚した。OS・T-5の泣き所とも言われている加減弁取り付け台座ボルトが錆により折れていた。しかも3本。T-5を所有している方に聞いたところ、このボルトは毎年交換が原則で、しかも蒸気漏れが多いところらしい。圧力が相当かかるところでもある。

折れたボルト

写真ではわかりづらいが、加減弁は取り付け台座に8本のボルトで固定されている。このうち黄色の矢印の3本が中で折れこんでいた。当然このボルトは貫通ではないのでボイラー外側から抜かざるを得ない。引き上げたときの状態で一番上部の一本が錆で真っ赤になっていたので嫌な予感はしていたが、3本となるとシャレじゃすまないということになる。

折れこんだボルトを抜くという作業は非常に難しい。加減弁を取り付ける方法はつぎのやり方が考えられる。

1. 穴の位置をずらして新たに8箇所ネジ穴を新設する。
2. 穴を拡大し、一回り大きなネジを使用する。
3. 無事な5箇所はそのままで加減弁本体と台座の折れたところだけネジ穴を新設する。
4. 折れたものを抜く

この取り付けボルトはM2.6である。よさそうな方法は1.と3.と考えた。但し3.はボルトの並びが不規則になるので見栄えが悪い。(本当は見栄えなどどうでもいいはず・・・)1の方法は一番ノーマルだが、ボイラーに8箇所も穴をあけ、ネジを截てるというリスクがある。2の方法は比較的簡単にいけそうだが、ボイラーを構成する銅に比べて鉄は固いので、ドリルが逃げてしまう可能性がある。

まず、1.の方法で穴をすべて新設することに決定した。T-5のボイラーは煙管が缶胴よりも突き出ているので、ボイラーをたてにして作業するにはとても不安定になる。
そこでスピーカーを作るときに余ったラワン合板を使用してボイラー台を作った。それから近所のホームセンターでM3のステンレスキャップネジを見つけたので、一応購入した。これなら、ステンレスなのでさびる心配はない上、一回り太くなっているので安心だ。

しかし、ここでも行き当たりばったり的な性格が災いした。ボイラーを立てると、いくら大型のボール盤とはいえ、さすがに主軸までの高さがたりない。ハンドドリルでは、万が一ドリルが折れた場合は取り返しがつかなくなる。その上、穴が真っ直ぐにあかない可能性が高い。

台座結局、1.と3.はリスキーということになり、4.の「抜く」という方法で取り組むことになった。万が一失敗しても、新たに穴をあけなおすスペースが残っている上、誤って穴を拡大した場合にも対応策がある。この取り付け台座の外形は40ミリ、内径は25ミリなので、幅は7.5ミリということになる。結構狭い。穴を拡大すると肝心な面圧が得られなくなる。やはり2.6で行くことが一番良いようだ。

私が今まで経験してきた自動車整備でも、このボルト抜きは必要になる。車ではとくにエキゾーストマニホールドの遮熱板やエンジンブロックとの接合ボルトが折れこんでしまうことが多い。マフラーと触媒のボルトは必ずといっていいほど折れる。車でのボルト抜きのやり方は、折れたボルトのできるだけ中心に細いドリルで穴をあけ、順次その穴を拡大し、いよいよねじ山に近いところが出てきたとこでタガネなどでボルトを崩しぺンチなどで引っ張り出す。だいたいは錆びているのでボロボロと崩れて出てくる。もちろん抜き取り前にはCRCをたっぷり染み込ませておく。ただ、車のボルトは一番細いものでもM8、通常はM12が普通である。これとライブスチームのボルトでは太さが違いすぎる。

できるかどうかわからなかったが、この方法で取り組んだ。まず0.5ミリで穴をあけ、0.8、1.0、1.2、1.5と2.4まであける。必ず偏芯しているので、一番薄い所に細い千枚通しのようなものでつつき、形が崩れたところで、折れた糸鋸の刃をピンバイスで咥えてがりがり削り取る。ドリルの刃がすぐに引っかかり、ピンバイスが空回りしてしまうため時間がかかったが、何とか最初の1本をこのやり方で抜き取るに成功した。一応タップを立て直したが、問題なくボルトは固定されていた。

最初の一本で成功したので、すべてこの方法でボルトを抜いて、結果的に最後の1本は2時間足らずで抜くことができた。しかし3本全部を抜くには丸々1ヶ月を費やしてしまった。

家に帰っては「穴をほじる」という作業を繰り返し、すっかりウンザリしてしまったが虫歯を治す歯医者さんの気持ちが少しわかったような気がした。

加減弁を調整して、スーパーヒーターとともにボイラーに組み込んだ。ガスケットをどうするか悩んだが、ここも勉強をかねて(失敗を覚悟で・・・)ガスケットを製作することにした。材料はバイクショップで売っているエンジン用ガスケット用紙である。OSオリジナルは0.25ミリだが、バイク・エンジン用は0.5がもっとも薄い。やや厚すぎる感があるが、車のエンジンなどの圧縮比はスチームエンジンの比ではないので、問題なかろうということで使用してみた。台座の形通りに切り取りバスコークを塗って圧着した。漏れなければいいが・・・・。


さて、ボイラーの組み立てが一段楽したところで、今度は運転台外装に取り掛かった。なぜこんな飾りを先に・・・ということもあるが、タンクを自作するということになると、運転台の形状が決まらなければタンクの形状も決まらない。運転台の形状も床下の形状がわからなければ決定しない。ここもやむを得ずOSの純正品を注文した。ちょっともったいない気がしたが、フィッティングが非常にシビアなのでやむをえない。在庫がなく届くまで時間があるということなので、引き上げたときについていた運転台を分解し、その中で基準となりそうなパーツを取り出した。運転室前面プレートがこれで、窓の形状、丸窓の大きさ、ボイラーのフィッティングを見ても「純正を使用している」としか見えなかったので、これを基準に型紙を製作することにした。おおよその側面図は12月の側面図に基づき設計した。運転台屋根はそのまま使えそうなので再利用することにする。近所の文房具屋で「工作用紙」とよばれる方眼のついた厚紙を購入し(なつかしかったなあ・・・)それでペーパー製の運転台とタンクを製作した。
紙製運転台 紙製運転台側面
キャブ前面 側 面

形状を決定する上で注意した点は、煙突・ドーム・運転台屋根の高さをほぼ直線でそろえるということである。特に理由はないが、日本の蒸気機関車はほとんどこれらの高さが揃っている。T5は運転台屋根だけ極端に低いので、屋根の高さを2センチかさ上げした。これによりボイラケーシングと屋根との間にスペースができたので、運転台窓をB20のような長方形の窓にすることができた。形態はこちらのほうが自然に見えオリジナルT5のものよりずっと好きになれた。

この型紙を元に、タンクもペーパーで製作した。注意しなければならないところは、キャブ側面とタンク側面を同じ高さになるように、且つボイラーとの隙間も開き過ぎないように幅を決定する。側面の寸法は12月の図面どおりに、幅については5センチで決定した。これを工作用紙で製作し、ボイラーを台枠に仮載せして、ペーパーキャブとタンクを載せて全体のバランスを見る。

 

全体図-1 全体図-2
斜め前から全体図 炭庫がとんがり過ぎのような気が・・・

横からの姿を眺めると、炭庫の突き出しがやや大きいような気がする。タンクについては機関車全体のバランスから見て大きすぎるような気がしたが、ここを小さくすることは運転上好ましくないので、タンクについてはこのサイズ、キャブについては高さをさらに5ミリかさ上げして、炭庫は逆に1センチ短くすることに決定した。

この寸法をもとにインターネットで購入した1.5ミリ厚真鍮小定尺板(6600円!)から糸鋸で切り出した。このくらい大きな真鍮板ともなると、その自重で固定が不要なので非常に楽である。しかし、長い直線を糸鋸でカットする場合には大型の弓を使う必要があり、非常に鋸刃が折れやすい。切削オイルを使うと折れは少なくなるが罫書が見えにくくなるのであまり使いたくない。ひたすらゴリゴリとカットし、材料を切り出した。折れた鋸刃は数知れず。鋸作業は単調で緊張する。水タンクの裁断が心配になった。

運転台パーツ

糸鋸で裁断し、曲げ加工したCAB

材料を切り出した後、正面パネルに□の窓を開ける。側面窓についてはキャブの屋根Rにそろえて曲げなければならない為、穴だけ開けて、曲げてから切り抜くことにした。真鍮はやわらかい素材なので、1.5ミリほどの真鍮板なら簡単に曲がるだろう考えていた。しかし、アングルと万力を利用した折り曲げを試みたが全く歯が立たず、おまけに真鍮を使用したため焼きなますこともできず、結局折り曲げを依頼するためタウンページで調べた近所の金属加工業者を回ることにした。

自宅から車で5分ほどのところに「遠藤工業」という会社を見つけて飛び込んだ。工場の排気ダクトなどを製作している。鉄板の裁断と折り曲げ加工を中心としていて、ロールマシンもシャーリングも置いてある。社長に赫赫云云話をすると、「高価な材料は緊張するなあ!」と言いながら、曲げ加工に対応してくれた。この機械は直角に曲げるための機械だったため、二箇所に分けて曲げ、徐々に屋根カーブに合わせた。おまけに、「水タンクの裁断」についても「設計図を持ってきてくれればカットしてあげるよ」とありがたいお言葉を頂いた為、翌日材料と設計図を持ち込んでカットをお願いした。誤差のない素晴らしい裁断。遠藤社長!ありがとうございました。

水タンクパーツ シリンダーステップ
シャーリングにより裁断した水タンクパーツ シリンダー上のステップ
もうひとつ、小物を製作した。右の写真のものは、シリンダー上のステップである。1ミリ真鍮板に動輪舎で購入した網目板をはんだ付けして完成。こんな簡単で小さな飾りでも、現物合わせで製作しなければならない為、なかなかフィットするものができず片方は一度作り直した。何より、自分の技術が足りない。

3月15日にセントラル鉄道から、第一回配布の「1/1機関車側面図青焼き」が届いた。中には手紙が入っており、4月20日から部品の配給をはじめます、と書いてあった。楽しみ楽しみ。しかし、当分は取り組むことができそうにない。

原寸大側面図を家で広げると恐ろしく大きい。ファインスケールではないことが、欠点のように言われることが多いが、この大きさでもマンションで製作するには大きすぎるくらいだ。T−5を見慣れた私としては、特にそう感じてしまう。


毎月の定例運転会で、動輪舎の矢作氏が新作を持ち込んだ。それは5インチ用カプラーで、以前からラインナップで取り扱っていたが、今回はフルモデルチェンジである。材質は真鍮合金で、ロストワックス製。外観の形状、カプラーとしての開放性能も申し分ない。おまけに全メーカーと連結可能ということだ。眺めているだけでニヤニヤしてしまう。しかも価格は9800円。この上ない。

動輪舎カプラー


もう二つ、定例運転会で凄いものが登場した。勝又氏がアメリカから持ち帰った、1番ゲージのワン・オフ機関車である。鋳物は一切使用されてなく、すべて削りだしによる製作となっている。重量はおよそ20キロで、1番ゲージというよりも3.5インチの機関車の感覚だ。牽引力は半端ではなく、力行している状態で機関車を捕まえておくには体を使って抑えていなければもっていかれてしまう。水面計、ガスの供給方とも、いままでのどの機関車とも異なる。

スイッチャー 水面計
写真では迫力が伝わりません、残念 水面計は内蔵されています
もうひとつは、中川氏の動輪舎C56のテンダーである。細かく作りこんでいて、実機とみまちがう様。素晴らしい出来栄え。客車につないで転がしていた。私も座りごこちを試してみたが、幅も十分で問題ない。後少しでエンジンも完成するようなので楽しみである。「いつかは動輪舎・・・」といつも思う。

C56テンダー

C56テンダー