2001年2月    「下回り組み立て」

OSに注文していた部品が一部を残して届いた。「自作できるところは自作する」という計画なので、まだまだ足りない部品はあるが今月は劇的に作業が進展した。

まず、軸箱系のパーツ破損により作業が止まっていたフレームに、動輪を組み込みサイドロッドでつなぐ。続けて軸動ポンプをフレームの中に組み込む。軸動ポンプとは動輪の回転を往復運動に変換し、動輪が回っているあいだ力行・惰行を問わずボイラーへ給水を行なうポンプである。これはライブスチーム特有のポンプで実物の蒸気機関車には付いていない。ライブスチームの軸動ポンプは通常1基だが、OSのT-5は2連になっている。ポンプのシリンダーをきれいに洗浄し、ピストンのOリングとダストブーツを新品に交換した。組み込む際にはグリースを充填した。

T-5のエキセントリックと呼ばれる変芯カムは同時にオイルポンプの動力もかねている。本物の蒸気機関車と同じでラチェット式で動く。左下写真に見える銀色の棒はフロントデッキ下のオイルポンプのラチェットを動かす。

 

軸動ポンプ 台枠削れ
軸動ポンプ シリンダー取り付け部の削れ

組み立てながら、OSの機関車は本当に良くできていると感じた。パーツの加工精度は当然のこととして、これだけ古い機関車(1983年製と判明。刻印あり)にもかかわらず磨耗は均一で偏磨耗は見られない。ベアリングも然り。ガタはほとんどない。ひとつ驚いたのは右写真シリンダー取り付け部に見える台枠の欠けだ。(黄色の丸印のところ)ここには鋳物のシリンダーがボルト止めされるが、シリンダーへ蒸気を送る蒸気室部分がどういうわけか溶けたように彫れている。熱と圧力の為と考えられるが、改めて蒸気圧力を再確認することになった。

追記2007年3月:この「削れ」は電蝕によるものであることが判明しました。電蝕は異なる金属同士の電位差により腐蝕するもので、砲金+黒鉄板の異種金属が接触しているところに蒸気圧力がかかった為です。船の排水・揚水ポンプではよく見られる症状ということでした。

次に、シリンダーを組み立てた。T-5はピストンバルブである。現状では、バルブの部分に真鍮丸棒で作られたダミーのバルブが入っている。これを抜き取った後、バルブを組み込む。機関車を引上げたときのパーツケースをあさるとバルブが3つ見つかった。そのうち1つは形状が異なっている。どうやら、旧タイプのバルブのようだ。新タイプのピストンバルブは、明らかにポートの形状が良く、効率的に蒸気の切り替えを行なうようになっている。当然、新タイプを組み込む。オイルをバルブ側、シリンダブロック側とも塗りこみ、傷をつけないように挿入し、吸気パイプ側にあるストッパーで締め付ける。

 

旧ピストンバルブ

使用しなかった旧タイプのピストンバルブ

ピストンは、2枚のピストンリングを持っている。このあたりは車のピストンと同じである。車の場合はオイルリングが加わるが蒸気機関車には必要ないようだ。車と同様にピストンリングの合口が180度ずれるようにピストンをシリンダーに組み込む。その後シリンダーの前後に蓋をするが、ここにはバスコークと呼ばれるシリコン系の水漏れ防止シールを塗らなければならない。バスコークはOSの機関車キットに標準装備されているようだが、今回はバスコークの代わりに、自動車用ボディーシーラー(ウレタン系)を使用してみた。これは、自動車ボディパネルの繋目に塗られているもので、エンジンルーム、トランク等のパネル剥き出しのところで見ることができるものである。体積収縮率がほとんどなく、ひび割れがない。さらに速乾性で作業効率も良い。蒸気機関車に使用しても問題は起きないと予想される。ついでに台枠とシリンダーの取り付けにもパッキンとして使用した。

台枠にシリンダーを取り付けると下回りの重量がいきなり増える。シリンダーを構成するパーツはどれも重量があり、ボイラーのない状態ではとてもフロントヘビーになる。

ここまでの作業は、特に難しいという所はなく終了した。機械加工済みのキットは本当に楽である。ただし今回の反省として、ネジ・ボルトがある。ライブスチームのように中途半端に大きい機械で使用されるボルトは、M2.3,2.6,3,4,位がほとんどで、このあたりのサイズは簡単に手に入れることができない。地元のネジ屋を廻ってみたが、けっきょく必要なものは入手できず、ほとんど動輪舎で購入した。ネジがないと、組み立ては不可能なので組み立て前にしっかり準備しておくべきだった。

次に、オイルポンプに執りかかる。部品ケースを見るとオイルポンプが1つ見つかったが、元はランボード上に左右で2機取り付けてあったようだ。本来はこのように左右で1機づつのオイルポンプが理想である。なぜならオイルの減り方によって、どちらのポンプの調子が悪いのか一目瞭然である上、仮に調子が悪くシリンダーを痛めてしまった場合でも被害は片方で済む。T-5オリジナルは1機のポンプから吐き出されたオイルを左右に振り分けて潤滑するので、パイプの片方が何らかの原因で詰まってしまった場合などでは、故障に気づかない恐れがある。

見つかったポンプはランボードに乗せていた為と思われるが、オイル容量が小さく加工されている。新品を購入するにはもったいないので、OHして使用することとした。

 

全部品 詳細
オイルポンプ構成部品 ポンプ部拡大写真

動作チェックするとオイルを送り出すハンドルに多少の引っかかりがある。どこかがストレスになっていると思われる。ポンプのスムーズな動きを妨げているのは、どうやらオイルケースの歪みが原因と思われた。これを板金加工よろしく修正し、各部品を洗浄した後スチームオイルを塗って組み立てた。今度は問題がない。とりあえずはこのポンプを使用してみることになった。

オイルポンプはその構造を知ると「感動」するほどよくできている。世の中には頭の良い人がいるものである。右写真に注目していただきたい。いちばん左に見えるピンはオイルを吐き出すピストンになる。そしてそのシリンダーは右から2番目のブロックで、この上部に左端のピストンが刺さる。ピストン上部には穴があけられており、その穴には上から2番目に見える銀色の変心ピンが刺さる。右側2つのブロックは向かい合わせに組まれており、動輪の回転を利用して変心ピンを回転させその回転によりピストンを引き上げ、オイルを吐き出す。この機能を文章で伝えるとなると、わかりにくくなってしまうので、この位にしておくが実に良くできている。見る機会があったらぜひ研究していただきたい。本物の蒸気機関車のオイルポンプもほぼ同様の機構となっている。

ポンプを組み立て、前台枠梁に取り付けたところで、軸動ポンプから伸びている梃子と連結する。ここも改造されていたため、ラチェットの梃子が長い。何も考えずそのまま取り付けたが、テコが延長されるとテコの運動量が増え、延長された分だけラチェットのコマが進まなくなる。結局、軸動ポンプからの梃子棒を逆に延長して、運動量を稼ぐことにした。OSの設計よりもかなりオイルを使用することになるが、シリンダーを傷つけるよりもマシと考えてこれで良しとした。

 

オイルポンプ梃子

延長されていたラチェット梃子

ここからいよいよロッドの組み立てに入る。しかしながら、部品をチェックすると右モーションプレートにひずみがあり、加減リンクを組み込むことができない。ここはバイスとハンマーで修正した。モーションプレートを脱脂した後塗装し、台枠へ取り付けた。ここはとても塗装が剥がれやすいパーツだが仕方がない。

ロッドを順番どおりに組み立てる。リターンクランクとエキセントリックロッド、逆転軸腕、ピストンバルブ相互の調整は後回しにして、とりあえず組み上げた。だいぶ蒸気機関車らしくなった。

 

クロスヘッド 全体図

ユニオンリンクと合併梃子はまだ・・・

煙室を載せて撮影(載せただけ)

モーションプレートに加減リンクを組み込み、プレート表裏からM7のナットで締め付けるが、このモーションプレートネジ穴が破損しているらしく、どうしても真っ直ぐ入らない。タップでさらえば治る可能性はあるが、ねじ側山も怪しいので、軽く締めて組み上げた。ここは後日ナットを交換する予定。

ロッドの調整は後回しにして、すべて取り付けた後、台枠ごとひっくり返し(これが重くて大変!)ドレインコックを取り付けた。ドレインコックは4本中一本が破損していたので、予備も含めて2本注文しておいたが届いた部品をチェックすると、ここも新しい部品に更新されていた。旧タイプのコックはドレンを下へ吐き出すようになっているが、新タイプは横に吐き出すようになっている。コックとシリンダーをつなぐネジも長くなっている。新タイプのほうがよっぽど良くできている。しかし2本しか注文していないので、新タイプを左右シリンダー前側、旧タイプを後ろ側に取り付けた。これにより、前から走るところを見た場合は左右にドレインを吐き出すようになる。ドレインコックは蒸気機関車の魅力を引き出す大切なところなので、もっと良いものがでて来たら交換する予定。

 

ドレンコック ドレン梃子

左が新タイプ、右が旧タイプ

梃子

ドレインコックは運転台から梃子で開くようになっている。ここの梃子にも欠品があるため、真鍮板から製作した梃子を取り付けた。オリジナルのT-5は左台枠を中心に両側からテコで挟むような設計になっているが、一度仮組したところ、ぐらぐらと剛性がなかったため右台枠の穴も利用して左右台枠をつなぐシャフトに変更して剛性を稼いだ。シャフトには5ミリの鉄丸棒を使用したが、これは大井川鉄道の新金谷車輌所の廃材置き場から拾ってきた鉄丸棒であった。こんなところで役に立つとは・・・

今月は下回りが形状を現した。


ふと気が付いたが、初めて日本庭園鉄道でライブスチームを見てからちょうど一年になる。とても昔のことに感じてしまうが、まだ1年しか過ぎていない。「挑戦してみたい」と考えてから1年経たないうちにこうしてライブスチームが自宅に鎮座しているということは本当に恵まれているとしか言いようがない。

すでに狼少年化しているが、残念ながら今月も8620の頒布は始まることがなかった。噂では3月から、テンダーを中心に部品の頒布が始まるという。ひたすら待つしかない。


出張で広島へ行くことになり、1984年以来、久し振りに広島運転所を覗いてきた。懸念されていたターンテーブルは第二機関区に健在であった。1984年当時はEF58、EF59、EF61、EF60、50系客車が所狭しとヤードをにぎやかにしていたが、今はすべて過去のものとなってしまった。聞くところによるとDE10は急速にその数を減らし、いまや風前の灯らしい。私は基本的に蒸気機関車にしか興味はないが、「機関車」というもの自体の存在がすでに危ぶまれている。とても残念である。

ターンテーブル       C59

広島第二機関区の前に面白いものを見つけた。縮尺5分の1「C59」である。ガラスケースに覆われて展示されている。昭和30年に製作されたものと説明がある。国鉄が作るライブスチームはどういうわけかすべて5分の1で製作されている。北海道の苗穂工場にはD51237で同縮尺モデルもあるし、松任工場にも、大井工場にもあるという。これらを一同に集めて運転会を開いたらきっと楽しいだろうなあ!